table marche (旧TeraとRojiと) 2017 出展作家 滝下達
September 29, 2019
− 作品や制作のこだわりについて教えてください
僕は地元の茨城県で木を使った器や彫刻作品を作っており、作品とは“感動するもの”と考えています。これは頭で分かっていてもそのような作品を作ることはとても難しいですね。
そこで、制作過程においては誰もがやりたくないであろうことを、敢えて選んでやることにしています。
今の時代は結果をすぐに求める傾向があります。だからみんな簡単にできてすぐに結果が出ることをやりたいですよね。
でも、作った自分も作品を見た人も、それで感動するんだろうか。そこに僕は疑問を抱いているからです。
人が感動するとは、作家がその作品を作るために歩んだ道のりに共感する、或いは今まで考えていた価値観を覆されるような驚きなど、感情が揺さぶられることです。
そして経験上、お客さまが自分の生活の中に作品があることを想像できた時に、初めて手に取っていただけると思っています。
− 「自然の力に負けない作品」について、詳細に聞かせてください。
僕はキャンプ用の簡易なテントを立てただけの囲いのない屋外という環境で制作しています。僕の作品は“自然に見える”という感想をよくいただきます。これは、木と自分が互いに挑戦した結果、木と自分が一つになれた作品だからではないかと考えています。
木は非常に個性の強い素材です。リスペクトし過ぎると、木の持つエネルギーに呑まれてしまい、作品になりません。自分が意志を持って向かっていった時に木は初めて応えてくれます。
具体的には、例えば木は反る、割れることも特徴です。硬い木が変形してしまうような強い力が木の中に存在しているのですね。そこで、木の力強さを伝える作品を作るためにはどうしたら良いのだろうか?ということで、意図的に割れを作ってみようとしたりするわけです。
そうしてできた作品は屋外で確認することにしています。自然はとても強烈なエネルギーを持っていますから、豊かな自然の中に作品を置いて、果たして自然に対して負けずに作品が自立しているかどうかを判断するのです。そしてそれが確認できた時に、初めて作品として成立しているということになります。
− なぜそのような厳しい環境を選んでいるのですか。
それ以外の選択肢がなかったからです。作家活動を始めて一年近くは、畑の隅にある大きな木の下で作っていました。(笑)
これは日本で木を扱う人には、常識を根本から覆す環境だと思います。でも、アジアやアフリカでは屋外で制作するなんて、特に変わったことではないでしょう?
もう一つは、自分を鍛えるためです。
僕は作家活動をして、まだ三年です。創作から離れた生活が長かったため、全ての感覚が鈍っていたことがこの環境になって分かってきました。屋外は木にも自分にも極めて厳しい環境で、甘い考えでやったことは全て自然に破壊されてしまいます。この環境であることが、人間として、作品として強く、スケールを大きくするためにプラスになっています。
結果論ですが、今の段階ではこれで良かったと思っています。自分が置かれている環境を最大限生かす形を探し続けることが大切なのですね。
− お一人で制作されている中で、個人の思考に固執しすぎないようにする工夫はありますか。
どのようなものでも吸収しようという貪欲さではないでしょうか。古今東西の分野、人を問わず全てのことを学んでいます。でも、一人でいると頭だけで小難しいことを考えてしまいます。そんな時、ごく身近な人たちの何気ない一言が自分の足元を確認させ、光を与えてくれることは今まで沢山ありました。
僕が制作を始めた頃は、材料を買うにも困る状態でした。そんな時、近所の鹿島神社の杉の木をいただけることになりました。今でも声を掛けてくれた人にとても感謝しています。分かっているようで分かっていなかった、感謝することを教わりました。
また、近所に生け花を習っていた方がいるのですが、作った花器に実際に生けてもらい、お話ししながらその方の言葉を拾っていき、作品の参考にしたこともありました。
こういう経験は作家という職業が社会と繋がっていることを実感します。
「TeraとRojiと」は、自分や作品が社会とどう繋がっているのかを直接感じ取れる貴重な場所ですよね。
作家が自分の幸せだけに留まらず、作品がいろいろな世代や地域を超えてどう繋がっているかを考えられるようになることは、とても大切なのではないでしょうか?
また、お客さまにとっては、作家とお話しして先ほどのような制作秘話みたいなことを聞けることは楽しいと思います。作家は単にオシャレなものを作っている遠い存在ではなく、社会の輪のなかにあることを知っていただける機会だと思います。
− TeraとRojiとに出展してみていかがでしたか。
土地のポテンシャルは他のクラフトフェアよりも圧倒的にあるのではないでしょうか。
TeraとRojiとは交通のアクセスが良く、人と人との距離が近い谷根千エリアにあり、そして間口の広さがあることです。
間口が広いというのは多世代、多国籍、工芸からアートなどの異なる領域の人たちがたくさん集まり、且つそこで暮らす地域の人たちと繋がってきた歴史がある場所だからです。
アートという切り口一つとっても、東京芸術大学などアカデミックなものからSCAI THE BATHHOUSEのような最先端の現代アートまでの幅広さがあります。
作品は何処でどんな人に受け入れられるのかは分からないものです。自分の予想と全然違う人たちが来ることもあります。ターゲットを研究することができる場所としても、とても面白いと思いました。
また、TeraとRojiとにはイベント期間中だけでなく、その先の可能性もあります。
主催しているHUB a nice day!さんは“haco”というギャラリーを運営していて、クラフトマーケット開催エリア内にある、カヤバ珈琲とSCAI THE BATHHOUSEの間に位置しています。
僕はTeraとRojiとの参加から、翌年hacoで個展を開く機会をいただきました。さらにその個展をきっかけに、海外での仕事に向けたやり取りも出てきました。
gallery haco: https://www.hubaniceday.com/gallery
個展では作品を展示する以外の面白い企画もありました。
“おもううつわ”というタイトルの器の展覧会でしたが、企画に際して料理家と音楽家のお二人が僕の茨城県の作業場に来てくださり、そこから感じたインスピレーションを元に料理や音楽を作成していただけたんです。
料理家の三島葉子さんは、上野桜木あたりの敷地内でお食事会を開いてくださいました。僕の器を見て一つ一つ考えた料理によって、作品をさらに一段引き上げたものにしていただき、参加者の方に食卓に並ぶ器のイメージを持っていただくことができました。
また、会場音楽はVEGETABLE RECORDの三上僚太さんのオリジナルミュージックでした。それまで分かりませんでしたが、音というのは非常に重要で、ギャラリーでは作品を見るだけでなく、五感で味わえる展覧会場にしていただきました。
− これから作家としてどのようなものを作っていきたいですか。
多くの人に語られるストーリーがある、密度の高い作品を作っていきたいと考えています。
レオナルド・ダ・ヴィンチは作品一つとっても本が何冊も書かれていますよね。それだけ洗練され、解釈が深く、密度が高いということだと思います。
真理を持っている作品は色々な人の解釈ができ、時間が経っても色あせないとても魅力的なものです。どこの国でもどこの時代でも受け入れられるものとはそういうものだと感じます。
− 作品と制作の力強さを感じ取れるような、貴重なお話をありがとうございました。
ありがとうございました。
執筆 - 川上 智子(かわかみ ともこ)
写真 - 折尾 大輔(おりお だいすけ)
インタビューした作家
滝下 達 (たきした たつし)
茨城県出身。木工作家・彫刻家。森の中で自然に負けない作品づくりをしている。table marche(旧
TeraとRojiと)、ギャラリーhacoでの展示を経て、百貨店での取り扱いや海外プロジェクトを手がける。
Website: http://tassi.jp/
Instagram: https://www.instagram.com/tassi_roots/_
TeraとRojiとではゆったりと時の流れる谷根千で作家との出会いを楽しんでほしい、という思いをもって活動しています。
そこで、作品づくりの背景やイベントに関する意見交換を作家として積極的に参加いただける出展作家さまを募集しています。
よりわくわくするような「TeraとRojiと」を一緒に創っていきましょう。
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