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季節を染めて、織りなされる物語。

TeraとRojiと 2020 Spring 出展作家 Koriolis Textiles(田中 香)

June 13, 2020


− 小さな頃からものづくりがお好きだったのでしょうか。


祖父母がものづくりが大好きでした。祖母は趣味で組紐をやっていて、七五三の帯締めを作ってくれたり、祖父は定年退職した後に、仏像を木彫りで彫り始めたり、とても器用な二人でした。


そして私の父は家具、母は洋服作りをしていて、作る楽しさを感じることができる環境で育ったんですよね。私自身もおもちゃのミシンをサンタさんに頼んだりした幼少期でした。家族が楽しく作っていたので、ものづくりを好きになるのは自然なことでした。そのうちに作ったものを人にあげて喜んで貰いたいと思うようになり、それは今も変わらずある思いです。


進路は母の洋服作りの影響か、私も洋服が大好きになっていたので、服飾の専門学校へと進みました。



− 専門学校を卒業した後はどのような道だったのでしょう。


アパレルの販売員をしていたのですが、結婚を機に主婦業をしていました。その後、母の知り合いでオーガニックコットンのお洋服やホームウェアなどをデザインしてる方がいらして、縫える人を探してるという話がたまたまあったので、そこから縫製の仕事をやり始めたんです。


人からオーダー受けたものを作るというのは失敗できないので最初はとても緊張しました。ただ、そこで鍛えられたことで自信をもって制作したものを出せるようになっていきました。


− オーダーを受けた経験が田中さんにとって初めて誰かのために作るということだったんですね。織りを始められたきっかけを教えてください。


縫製の仕事を始めてから、織りはずっと気になっていました。最初は趣味として、スコットランドの方でタータンチェックのデザインを学ばれた明石恵子先生(※1)のもとで、4〜5年ほど学び今では織りを始めて8年ぐらいです。


より織りに魅かれたのは教室で明石先生の言う「チェックの魔法」にかかってしまったことにあると思います。そんな魔法にかかって、当時はチェック柄の図案を作っては織っていました。先生の書籍に自分も携わった図案が載った際には達成感がありました。


学生の頃から自分のブランドを立ち上げ人に届けたいという気持ちをずっと持っていたんですが、縫製の仕事を始めてからもなかなかやりたい事が形に纏まらないまま時間が過ぎていきました。


− やりたい事が形になってきたと実感したのはどんな瞬間でしたか。


織りを学びながら、次第に自分でチェック以外の柄をデザインしたい、という想いが湧いてきて。そこで生まれたのが三角形の鱗模様です。



着物では定番の柄ですが織物ではあまり見たことがなかったので、先生に織り方を相談しました。そうして柄が出来た時に、作品として形に出来そうだと思えたんです。


そこに学生の頃から考えていたブランドを立ち上げるという思いが繋がり、「ブランド名は「Korioslis Testiles」としました。

ただ何十点か形にしないと、どこかに販売する事もできないですしちょうど子供の学校行事も忙しくなった時期でもあったので三角形の柄が出来てから始動するのに一年ほどかかりました。


− その柄で1番最初に制作したものには思い入れもありそうですね。


商品として最初に制作したものは、レジ袋をモチーフにデザインしたミニバックです。



持ち手の太さのバランス、袋の形、まちの太さなど色々試作しました。持ち手をクロスして引っ掛けると、浴衣など和服に合わせても可愛いかも、と思ったり。


そこから一年ほど制作を続け、並べられるボリュームが出来たので、都内のハンドメイド市に応募しました。最初の頃は出展をして素通りされたらと不安でしたが、お客様が温かく迎え入れてくださり嬉しくて泣きそうになったのを覚えています。その際にブックカバーが欲しいわ、といった生のお声もいただけて制作するものが増えていきました。


私は基本的に普段使いできる物を多く作っています。特別な日に使うものではなく、毎日の鞄の中で気に入ってるものを見つけて「あ、なんだかいい気分」と思ってもらえたらとても嬉しいです。実際に自分の作ったものがお手元に届いていくのを見ていると、こんなに有り難いことはないと感じています。



− 柔らかな色合いの作品たちですが、実際に糸染めもされていますよね。


季節の色を糸に乗せて織物をしようと思っています。


元々、コロナの流行が無ければ春に草木染めをきちんと学ぼうと思っていました。外出自粛期間中は、染色をやっている友人から草木染めの基本を教えてもらい、庭に植えてから8年ほどの枝垂れ桜で草木染めを試してみました。


志村ふくみ先生(※2)も力を溜め込んだ枝を使うとピンクに染まるんです、と仰っているように桜染めは咲く前の枝でピンクに染めるのが定番なんです。庭の枝垂れ桜はもう緑の葉が茂っている状態でしたが、その枝で染めてみると今でもピンクに染まったのが感動しました。今後は本格的に草木染めで織ってみたいですね。



− 日々の感覚を大切にされている印象です。普段の生活から、ものづくりのヒントを得ることはありますか。


直接的に物になってるというよりは、例えば美術館で見た絵画の色の組み合わせや、ショッピング中に見つけた素敵なお洋服などが脳内で作用して、作品に反映されている事もあると思います。花や雨といった自然のものからインスピレーションをもらい柄に乗せることもあります。


人は、今まで経験して蓄積されたものでできていると思います。私の場合は、それがものづくりに還元されているのだと思います。


− 新たな活動の軸としてwebショップを開き、オンライン販売も開始されましたよね。


イベントに出展をしてお客様に会うことが何よりの楽しみだったのですが、今年の春はコロナウイルス感染症の影響で予定していたイベントが延期になりとても残念でした。

ただ、このまま悲しんでばかりはいられないと思い自分の出来ることを探しました。

コロナウイルスの流行に危機感を覚えた1月ぐらいからマスク作りの為の材料を集めていたので、まずマスクを沢山作り知人や介護施設に送るなど制作に追われていました。やっと落ち着いた時に自分のことをやっていないことに気づきました。


無かったホームページを制作することを決め、合わせてオンライン販売の場にしようと思いました。ホームページ作りでは、Koriolis Textilesのコンセプトや、ものづくりをしていく上で大事にしたい気持ちを自分の中でまとめる事が出来て良い機会になりました。


− 田中さんの中でこれからチャレンジしてみたいことはありますか。


ブランドを立ち上げたいという想いが形になるまでの助走が長かった分、今やりたい事が放出されてる気がします。

今後は草木染めやウールの糸紡ぎを習うなど素材からこだわりたいです。

また、今使用してる織り機が洋物なので着物や和服も作れる織り機で制作をしてみたいですね。


私はやりたい事が多くて生き急いでしまいがちなんです。ある時、縫製の仕事を始めるきっかけとなったオーガニックコットン商品のデザインをされている方にやりたい事が出来ていない焦りがあるという相談をしたことがあったんです。


するとその方が、

「人生はね、短いようで長いから。

忙しいときは時間がないようだけど、けっこう先はあるから大丈夫。」

と、焦っている私を励ましてくださって。

その言葉を聞いてから焦らずにひとつひとつ丁寧に習得していこう、と思えるようになりました。



− TeraとRojiとには初めてのご参加だと思うのですが、参加しようと思ったきっかけは何でしたか。


実は一昨年ぐらいに事務局のスタッフの方からお声をかけて頂いたんですが、スケジュールが合わなかったのでお断りをしていました。こんな素敵な界隈で出展できるTeraとRojiとは気になっていて、今年こそはと楽しみにしていました。


コロナウイルス感染症で次々とイベントがなくなる中で、これまでイベントに出展したことで出会える素敵な作家さんや、お客様が自分のものづくりを大きく支えてくださっていたことを心の底から痛感しました。

このような悲しい期間があったからこそ、今後は一つでも多く笑顔で心と心が通うような場が開催できたら嬉しいです。



(※1)明石恵子さん:手織工房を運営。英国に留学中、英国の手織りに魅了され、後に再渡英、デイビッド・ガーニーから服地の織りを学ぶ。


(※2)志村ふくみさん:染織家、随筆家。

31歳のとき母・小野豊の指導で植物染料と紬糸による織物を始める。

重要無形文化財保持者(人間国宝)、文化功労者、第30回京都賞(思想・芸術部門)受賞、文化勲章受章。京都市名誉市民。



執筆 - 澤井 奈々子(さわい ななこ)

写真 - 折尾 大輔(おりお だいすけ)

編集 - 川上 智子(かわかみ ともこ)



 

インタビューした作家


Koriolis Textiles

デザイン、織りから縫製までこなす織物作家。

長く使えるよう天然素材を使用した手織り雑貨を手掛ける。アパレル販売を経験後、縫製の仕事をしながら手織りを学び2017年からKoriolis Textilesとして活動。 各地でのイベント出展や、企画展への参加、オンラインショップでの販売も行なっている。



 

TeraとRojiとではゆったりと時の流れる谷根千で作家との出会いを楽しんでほしい、という思いをもって活動しています。


そこで、作品づくりの背景やイベントに関する意見交換を作家として積極的に参加いただける出展作家さまを募集しています。


よりわくわくするような「TeraとRojiと」を一緒に創っていきましょう。

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