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自由な発想で素材の可能性を表現する

TeraとRojiと 2019 Spring 出展作家 Kanami Takeda Ceramics

June 13, 2020

− 作品を作るようになったきっかけについて教えてください。


もともと大学では日本語専攻でデンマーク語が副専攻だったのですが、いつの間にか気持ちが逆転してしまって。


年齢を問わず興味のあることを学んだり本当にやりたいことを見つけたりするための「フォルケホイスコーレ」という機関がデンマークにあるのですが、私はその中でもデザインやアートを学べる学校を短期留学先として選んだんです。その際になんとなく選択した陶芸のクラスで初めて土を触り、なめらかで繊細なポーセリン(磁器)にすっかり魅せられました。


そこで素晴らしい恩師と出会ったことと、初めて作った作品を購入したいと言ってもらったときの嬉しさや充実感が忘れられなかったことがデンマークに戻ってもっと学びたいという想いにつながり、日本で大学を卒業した後に、ご縁のあったデンマークのデザインの大学に入学することになりました。


− 作品のアイデアはどのようなところから生まれるのですか。


コンセプトから組み立てていくこともありますし、頭の中にあったアイデアと素材との出会いから作品ができることもあります。


たとえば、ガラスでできたマドラー『summer spoon』は、ガラスの工場を見学に行ったときに色とりどりのガラス棒がぎっしり並んでいるのを見て、このガラスならではの透明感とカラーを活かした作品を作りたいと思い生まれた作品です。ちょうどカラフルなマドラーを探していたところだったので、ガラスという素材と自分の「欲しい」という想いがうまく合致した感じですね。



− 作品のひとつひとつにコンセプトがあるというのが素敵です。


見た目や機能だけでなく背景に物語を持っているものに魅力を感じるので、作品のアイデアが生まれたきっかけやどうしてこの形になったのかといったプロセスも作品の一部としてお客様とシェアしたいと思っています。


たとえば、『God rejse!』というボート型の花器は、内祝いのオーダーをいただいたことで生まれたものです。「オリジナルの内祝いを作ってほしい」というオーダーだったので、同じものを二つ合わせたら丸い形になって円満をイメージできることと、新しい人生の船出をお祝いするという意味を込めて、ボートの形を採用し、内祝いにふさわしい作品になるように心を込めて制作しました。


『give me hands』というお皿から伸びた手がリングやイヤリングを持ってくれるジュエリーホルダーは、指輪をたくさんつけているルームメイトのために制作したのが始まりです。彼女は外した指輪をどこにでも置いてしまう人だったので、「外した指輪はここに置いてね!」と言ってプレゼントしました。作品から「指輪はここにあるよ」って話しかけられているように感じてもらえたらいいなと思ったんです。


販売していくうちに、お客さまから指輪を取るときに「行ってらっしゃい」と言ってくれている気がするというお話や、うやうやしく天に捧げものをするように指輪を置いているというお話を聞くようになりました。


制作した私自身が思いつかなかった使い方を見つけていただいたり、独自の視点でストーリーを加えて楽しんだりしていただくことで、作品に想いや物語を加えて一緒に時を重ねていただきたいですね。


そうした物語を加えてより魅力を増した姿で、作品が100年後くらいのアンティークマーケットで並んでいてくれたらいいなと思っています。ですから、お客さま自身の物語の始まりを垣間見られる、TeraとRojiとのように直接お客様とお話ができる機会は大切にしています。


特にTeraとRojiとは、住宅街を中心とした屋外の開放的な環境で開催されているところが魅力のひとつですよね。偶然見つけて、ふらっと立ち寄ったというお客様がたくさんいらっしゃるのも素敵なところです。なんとなく足を留めていただいた方にコンセプトをお話して興味を持っていただき、作品をお迎えいただくことになった時は特別嬉しいです。 



− 込められた想いや背景にある物語が感じられると、作品がより愛おしくなりますよね。デザインやアートには、小さい頃からご興味をお持ちだったんですか。


中学生の頃にHella Jongerius(ヘラ・ヨンゲリウス)※の作品に出会ったことで興味を持つようになりました。それまでは陶芸というと美術館のガラスケースに入っているものか日常の食卓にあるお皿のどちらかというイメージしかなかったので、ヘラの作品を見て衝撃を受けました。


頭が固い子供だったので、アートなの?デザインなの?と考えた時に、固定観念に縛られず自由にコンセプトを表現しているヘラのデザインに惹かれたのだと思います。



− 「アートと実用的なプロダクトの間」というスタンスや、制作において自由であることを大切にする考え方は作品にも現れているような気がします。


私は磁器土を使った鋳込みの技法を中心に制作していますが、アイデアやプロセスの途中で、他の土や作り方が良いと判断した場合はそれにこだわらないようにしています。


アートやクラフトやデザインというカテゴリーに当てはまらないものづくりをデンマークで学んできたので、自分らしい作品であるためのルールは最低限持ちつつも、可能性を狭めず、広い視野を持って制作していきたいと思っています。


そのためにも実験的な素材を試したり、陶磁に限らず他の素材のことも学ぶ機会を積極的に持つようにしています。陶芸家ではないので元々違った立ち位置ではあるのですが、陶磁をメインに制作していると、日本の陶芸は伝統や歴史があるので、「こうあるべき」という考え方に触れたり、”うつわ”は作らないの?と聞かれたりといったことがあったので、帰国当初は悩んだこともありました。


でも、肩書きや枠組みに自分をはめ込むことなく、もう少し軽やかな立ち位置で素材を扱っていきたいし、それができることが強みかなと今は思えるようになりました。


− 実験的な試みはご自身でもたくさんされていますよね。


たとえば、「湯の花(温泉に含まれる成分が固形化したもの)」の成分が釉薬の成分に似ていることに気づいて試してみたことがあります。そうしたら面白いことが起こったんですよ。それで、全国各地の湯の花のうちお取り寄せできたものについて焼いてみるっていうことをしていました。でも取り寄せるにも限りがあるので、もっと集めたいと思っているところなんです(笑)。


時間はかかるのですが、待たされるのもワクワクします。これからも身近なものを素材として使ってみるなど、実験的なことをしているうちに新しい発見ができたらいいなと思っています。


− そうやってオリジナルの作品ができていくんですね。


KanamiTakedaCeramicsとして販売しているものとは別に、展覧会などに出すアート寄りの作品も制作しているのですが、作品を通じて「この素材でこんなことができるんだ!」という陶磁器の素材としての可能性を感じてもらうことを活動のテーマにしています。


土はシンプルな素材ですが、成形方法、釉薬、焼き方などで全く異なる多様な表現ができるので本当に奥深いですし、磁器はそれ自体がプレーンな素材なので加えられる要素もあるのかなと思います。


背景やストーリーと素材にはこだわりつつ、デンマークで学んだ“less is more(=引き算のデザイン)“というシンプルさを活かす考え方も大切にしたいですね。作品としてはそのシンプルさとチャーミングさを感じるポイントのバランスをうまく取ることを心がけています。


「機能」と「見た目」と「ストーリー」という3つの要素がある作品を作るというところはブレずに、私だから作れるものってなんだろうということを考えたうえで、ほかの人とは違う個性的なものを作っていきたいですね。


− これからチャレンジしてみたいことはありますか。


ガラスのジュエリーを作りたいです。ガラス作品を作るときに出てしまう端材を活用して、金属と組み合わせたら新しいものができるのではないかと思ったんです。デザインするにあたっては組み合わせる素材の金属のことももっと知りたいなと思っていて、オランダから帰ってきたデザイナーの友人にいろいろと教えてもらう約束をしているので楽しみです。


ヨーロッパはサステナビリティを意識しているデザイナーさんが多くて、私も、今気軽に使っている素材が何十年後かにはとても貴重なものになっているかもしれないと考えるようになりました。ですから、できる限り素材を活かせるよう配慮して制作をしていきたいです。


あとは、教えることにも興味があります。まずは1DAYのワークショップのようなものから始めてみたいですね。


今後も、自分自身や周りの変化を楽しみつつ、その時々に「作りたい」と思ったものを作品として世の中に出していけたらいいなと思っています。TeraとRojiとでも、私の作品にご縁を感じて連れて帰ってくれる方と出会えたら嬉しいです。


※Hella Jongerius ヘラ・ヨンゲリウス(1963- ):オランダの工業デザイナー。クラフトの要素を持ちながら自由な発想で生み出される作品が特徴的で、彼女のデザインしたテキスタイル・食器・家具などは数々の有名企業で採用されているほか、世界各地の美術館にも収蔵されている。



執筆 - 藤沼 はるこ(ふじぬま はるこ)

写真 - 折尾 大輔(おりお だいすけ)

編集 - 川上 智子(かわかみ ともこ)


 

インタビューした作家


Kanami Takeda Ceramics(カナミ タケダ セラミックス)

陶磁器作家・デザイナー。陶磁器ならではの素材感を大切にクラフトとデザインの合間にあるユニークな作品を多く制作。デンマーク王立デザインアカデミー陶磁器デザイン科を卒業後、ヨーロッパを中心に活動し、2017年より日本で作品販売を開始。各地で個展や企画展に出展するほか、オンラインでも作品販売を行っている。TeraとRojiと2019 Springの部に出展。





 

TeraとRojiとではゆったりと時の流れる谷根千で作家との出会いを楽しんでほしい、という思いをもって活動しています。


そこで、作品づくりの背景やイベントに関する意見交換を作家として積極的に参加いただける出展作家さまを募集しています。


よりわくわくするような「TeraとRojiと」を一緒に創っていきましょう。

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